弁護士に債務整理を依頼すると請求(督促)がストップ出来る?受任通知の効力とは

弁護士に債務整理を依頼すると、弁護士が債権者に対して「受任通知」というものを送付してくれます。
この「受任通知」にはどのような効果があるのでしょうか。また、受任通知を送付することによりリスクは発生しないのでしょうか。
今回は、このような観点から、弁護士が債務整理の際に送付する「受任通知」について解説していきます。

1 受任通知とは

受任通知とは、債務整理の依頼を受けた弁護士や司法書士が、金融機関や貸金業者などの債権者に、その弁護士や司法書士が代理人として手続を進めることを知らせる通知です。
債務整理の依頼を受けた弁護士や司法書士は、一般的に、受任後数日以内には受任通知を債権者に発送します。
受任通知を受け取った債権者は、債務者に対する請求(督促)を停止することとなります。

2 弁護士の受任通知で請求(督促)が止まる理由

消費者金融やクレジットカード会社などの貸金業者については貸金業法により、債権回収会社(サービサー)については「債権管理回収に関する特別措置法」(サービサー法)により、受任通知受領後の督促行為は禁じられています。そのため、受任通知を送ると、請求が止まります。
具体的には、以下の行為が禁じられています。

  • 郵送やFAX、電報による督促
  • 債務者の自宅や勤務先を訪問して返済を要求する
  • 直接連絡をしないよう伝えても連絡をする

貸金業者に該当しない銀行や信用金庫、一般の債権者については、上記のような禁止規定はありません。
しかし、これらの債権者についても、多くの場合、従前どおりの支払いが困難であることが明らかであるため、自主規制により督促を中止します。

3 借金の督促が止まらないケース

受任通知を受領しても、以下のケースにおいては督促が止まりません。

3-1 督促をする正当な理由がある場合

貸金業法やサービサー法においては、受任通知を受領した後も、「正当な理由」がある場合には、債務者本人に対する直接の督促が認められています。
具体的な例としては、受任通知を送付してきた弁護士や司法書士と全く連絡がつかない場合が挙げられます。
そのため、この場合には、受任通知が送付されても債務者本人に督促されることがあります。

3-2 ヤミ金からの借入の場合

ヤミ金とは、刑罰が課される出資法の上限金利を超える金利で金銭貸付を行う違法な金融業者のことを指します。
多くの場合、ヤミ金は所在地が不明なことが多いため、電話やメール、SNSなどを用いて受任通知を送付します。
しかし、ヤミ金のなかでも特に悪質な業者は「債務者本人に督促しないように」という要求を無視して、本人に対する執拗な督促を続ける場合が少なくありません。
そのため、ヤミ金に対して弁護士が受任通知を出す場合には、事案によっては、債務者がヤミ金の電話やメールをブロックしたり、自宅から避難することが必要になることもあります。

3-3 個人からの借入の場合

債権者が個人の場合にも、受任通知を無視して、債務者本人に督促を続ける場合が見受けられます。
個人債権者は、信頼関係に基づいて貸し付けをしている場合も多いため、受任通知が届いて返済が困難だと知ると、感情的になり、執拗な督促に発展するケースがあるのです。
そのため、ケースによっては、ヤミ金の場合と同様、受任通知送付後、債務者が個人債権者の電話やメールをブロックするなどの対応をすることが必要なことがあります。

4 受任通知を送付する場合の注意点

4-1 受任通知を送付するといわゆる「ブラックリスト」に掲載される

金融機関や貸金業者が受任通知を受領すると、信用情報機関に対して、事故情報として登録を行います。
このことを「ブラックリストに載る」などといいます。
金融機関や貸金業者、クレジットカード会社は、新規の融資やクレジットカードの申込を受けると、信用機関に照会をかけるため、事故情報が登録されてしまうと、新たな借り入れができなくなったり、新しいクレジットカードを作ることができなくなったりします。

4-2 銀行口座が凍結されるリスクがある

銀行からの借入に対して受任通知が送付されると、債務者がその銀行に対して有している口座が凍結されます。
銀行口座が凍結されると、入出金、振り込みなど全ての取引ができなくなります。そのため、給与の受け取りや、公共料金や携帯電話料金の引き落とし、クレジットカード利用料の支払などができなくなります。
そして、預金残高が残っている場合には貸付残高と相殺されます。これは、借入がある支店と口座がある支店が異なる場合にも行われます。

4-3 保証人に請求される

自身の債務に保証人がついている場合、主債務者についての受任通知が債権者に届くと、債権者は、保証人に対して代わりに支払いをするよう請求します。
そのため、保証人が付いている債務について債務整理を行う場合には、保証人に連絡しておいた方が望ましいといえます。
なお、保証人以外の家族や親族に請求されることは通常はありません。

4-4 クレジットカードは強制解約になる

クレジットカードの利用料について債務整理を行うために受任通知を送付すると、クレジットカード会社から強制解約されることとなります。
通常、クレジットカードの会員規約には、「信用状態が悪化したときには、会員資格を取り消す」という条項が設けられています。債務整理を行うことは「信用状態が悪化したとき」に該当するため、強制解約されてしまうのです。

4-5 訴訟を起こされる可能性がある

受任通知を送付しても、債権者が訴訟を起こすことを止めることはできません。そのため、受任通知を受け取った債権者が、訴訟を起こすこともあります。
訴訟を起こす目的には、①債務額、支払義務の確定、②強制執行(差押え)を可能にすることや、③確定判決により消滅時効期間を10年に延長して財産状態が改善したら取立てができるようにすることなどがあります。
ただし、訴訟手続の中で、支払に関する協議をして和解することが可能なこともあるため、事案によっては、訴訟が起こされてもあきらめずに対応した方が望ましいといえます。

4-6 利息・遅延損害金は発生する

受任通知を出すと、それまで悩まされていた郵便、電話、メールなどでの督促が止まりますので、そこで安心してしまう方もいらっしゃいます。しかし、受任通知を出して督促が止まっても、支払をしなくてよくなるわけではありません。支払義務を負っている状態に変わりはなく、本人への督促行為が制限されているということに過ぎませんので注意が必要です。
督促が止まっている間も利息や遅延損害金は発生しますので債務が膨らんでしまうことがあります。
受任通知を出した後も、早期に返済計画を作成して任意整理を進める、個人再生、自己破産申立ての準備を行うなど対応が必要です。

5 まとめ

債務整理の受任通知を送付することは、債権者からの督促を止めるという大きなメリットがある一方で、先に述べたように様々なリスクがあります。
リスクのうち、銀行口座の凍結や保証人への請求、クレジットカードの強制解約は、債務整理の方法を任意整理として、対象となる債権については債務整理対象から外せば回避することが可能です。
しかし、特定の債権を債務整理の対象から外せば、月々の返済が残ることとなり、そのために他の債権の整理が難しくなることも、債権者数や債権総額によってはあり得ます。
そのため、債務全体の状況によっては、リスクを甘受して全ての債務について債務整理を行う必要があります。
自身の債務についてどのような債務整理が適切か、受任通知発送によるリスクにどのように対応すべきかについては、弁護士に相談して解決するのが最善といえます。
債務の支払いに追われて生活が苦しいと感じられている方は、是非一度、弁護士に債務整理の相談をしてください。

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