熟年離婚
日本人の平均寿命が延びたことにより、70歳以上の熟年離婚が増えています。厚生省が公開した平成29年簡易生命表によると、日本人の平均寿命は過去最高を更新して、男性は81.09歳、女性は87.26歳となりました。つまり、仮に50歳で離婚した場合でも、その後30年以上もの人生が残されていることになります。
上昇する熟年夫婦の離婚件数
厚生労働省の人口動態統計月報年計(概数)によると、平成29年は212,262組の夫婦が離婚しています。このうち同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は、38,285組です。つまり、この年に離婚した夫婦の内、18%が熟年離婚なのです。
ちなみに、昭和60年は166,640組が離婚し、このうち同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は20,434組で、全体の12%でした。平成7年は199,016組が離婚し、このうち同居期間が20年以上の夫婦の離婚件数は31,877組で、全体の16%でした。離婚に占める熟年夫婦の割合は、上昇傾向にあります。
同居期間別離婚件数の年次推移
厚生労働省|平成29年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai17/dl/kekka.pdf
全体の離婚率の推移
全体の離婚率(人口千対)は、平成14年の289,836組のピーク時から減少傾向が続いています。平成29年の離婚件数は212,262件で、前年の216,798件より4536組減少しています。離婚率は1.70で、前年の1.73よりも低下しています。
離婚件数及び離婚率の年次推移
厚生労働省|平成29年人口動態統計月報年計(概数)の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/geppo/nengai17/dl/kekka.pdf
熟年離婚の理由
熟年離婚が増えてきた理由の一つに、女性の社会進出が考えられます。結婚後も外で働き続ける女性が増え続けていて、こうした女性たちは経済的に自立しています。「経済的な理由で離婚ができない」といったことがなくなったのです。
下記のグラフは、専業主婦世帯と共働き世帯の推移です。
次に考えられるのは、「子供のために離婚をしなかった」というものです。夫婦間の信頼関係はすでに破綻していたのだけれど、「子供が自立するまでは我慢をしていた」というものです。
配偶者の親の介護をしたくないから、また、配偶者の介護をしたくないという理由もあります。これは家を守らされがちの女性に限った話ではなく、男性においても当てはまる話です。最近は、中高年の「介護疲れ」が社会的な問題になっています。
また、「平成19年の年金制度改正により、熟年離婚に拍車がかかった」という説もあります。この改正が導入されるまで、専業主婦がもらえる年金は自身が加入している国民年金のみでした。しかし、後述する年金分割制度により、専業主婦でも一定の収入が見込めるようになり、老後の生計を立てられるようになった可能性があります。
離婚後の生活費を確保する
専業主婦の女性は、離婚後の就職が難しく、生活に困窮する可能性があります。そうならないためにも、離婚後の生活費を確保する必要があります。次に、財産分与、退職金、年金について説明します。
財産分与
財産分与の対象となるのは、夫婦が共同で築き上げた共有財産です。結婚してからの預貯金、保険金などは、名義がどちらになっていようとも原則として夫婦の共有財産となります。また夫婦が協力して購入した家や有価証券、車なども、共有財産です。
結婚生活が20年以上にもなると、夫婦の財産もそれなりの額になるでしょう。ですがここで気をつけなければならいのは、住宅ローンや借金も財産分与の対象になるということです。
独身時代に作った財産(特有財産)は、原則として財産分与の対象外です。また、結婚中であっても、相続や贈与で得た財産は夫婦共有財産とはなりません。
財産分与については、弊所コラム「財産分与」(https://www.f-central.org/rikon/rikon-006/)も併せてご参照下さい。
退職金
退職金がすでに支払われている場合には、同居期間と勤続年数等によって、財産分与の中で、配偶者が受け取ることのできる金額を決めることになります。ただし、退職金を受け取ってから時間が経ちすぎ、すでになくなっている場合には、原則として財産分与の対象にすることはできません。
将来受け取る予定の退職金も、熟年夫婦の場合には、婚姻期間中に相当する分は、財産分与の対象となり得ます。これは、退職金には給与の後払的な性格があると考えられているためです。しかし、退職金は、会社の経営状態や退職理由によっては支払がされない可能性があります。確実に受け取ることができるという保証はありません。このため、まだ手にしていない退職金を財産分与の対象とすることを裁判所が認めないケースもあります。
まだ手にしていない退職金は、一般的には別居時に自己都合退職したと仮定して算定することが多いです。退職金相当額から婚姻前の労働分を差し引いた額が、分与の対象となります。しかし、実際にこの額の分与を求められるかどうかは、個別の事情によって異なります。
年金分割制度
年金分割制度とは、離婚をしたとき、婚姻期間中の厚生年金記録を当事者間で分割できる制度です。 たとえば、夫が企業に勤めていて、妻はずっと専業主婦だった場合、老後の年金は夫と妻それぞれの名義の国民年金と、厚生年金を受け取ることになります。離婚すると妻がもらえるのは国民年金だけになり、夫と妻の受け取る金額に大きな差ができてしまいます。
こうした問題を是正するために、年金分割制度が導入されました。この制度には、「合意分割制度」と「3号分割制度」があります。
合意分割制度
平成19年4月1日以後に離婚し、以下の条件に該当したときに、婚姻期間中の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を当事者間で最大2分の1ずつ分割することができる制度です。
この制度を利用するには、当事者の一方からの請求が必要となります。
- 婚姻期間中の厚生年金記録があること
- 分割することの合意があること
- 分割割合の合意(按分割合)があること
- 請求期限内であること(原則として、離婚をした日の翌日から2年以内)
合意分割の請求が行われた場合、婚姻期間中に3号分割の対象となる期間が含まれるときは、合意分割と同時に3号分割の請求があったとみなされます。
3号分割制度
平成20年4月1日以後の婚姻期間中の3号被保険者期間における相手方の厚生年金記録(標準報酬月額・標準賞与額)を2分の1ずつ、当事者間で分割することができる制度です。この制度を利用するにも、当事者からの請求が必要となりますが、3号分割においては、双方の合意は必要なく、請求すれば、当然に分割されます。平成20年5月1日以後に離婚し、以下の条件に該当したとき、国民年金の第3号被保険者であった方からの請求によりこの制度を利用できます。
- 婚姻期間中に平成20年4月1日以後の国民年金の第3号被保険者期間中の厚生年金記録があること
- 請求期限内であること(原則として、離婚をした日の翌日から2年以内)
年金分割制度については、弊所コラム「離婚 年金分割とは?」(https://www.f-central.org/rikon/rikon-003/)も併せてご参照下さい。
離婚後の生活
長い間、家事を妻に任せきりにしてきた男性が、一人でいきなり生活するのはたいへん困難です。途方に暮れ、中には健康を害してしまう人もいることでしょう。
他方で、専業主婦をしてきた女性には、収入の問題があります。財産分与や年金だけでは生活できない場合、外で働く必要があるでしょう。しかし、ブランクが長いために、仕事を見つけにくい状況が考えられます。
また、独身の生活で病気になったとき、あるいは働けなくなったときのことも考える必要があります。離婚をしてみてはじめて、一人の生活のさみしさに気がつくこともあるでしょう。かといって、簡単に再婚するというわけにもいきません。
早く離婚したいと思われることも多いかもしれませんが、今までの生活の前提が大きく変わることになりますので、いきなり離婚をするのではなく、まずは、相談をしてみる。あるいは、別居をしてみて、「一人でもやっていける」と確信をしてから離婚に踏み切るのも一つの方法です。
本コラムは平成30年12月13日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。