親権者の指定
はじめに
離婚を考える際には,夫婦のどちらが子どもを養育していくのか考えなければなりません。
婚姻中は,夫婦が共に子どもの親権者です(共同親権)。
しかし,離婚をすれば,夫婦であった2人は基本的に別々に生活をすることになりますので,子どももどちらか一方と生活をすることになります。
諸外国では,離婚後も共同親権が認められている国もありますが,日本では,離婚後の共同親権は認められていませんので,夫婦の一方を親権者に指定しなければなりません(単独親権)。法律上もそのように規定されていて,夫婦の一方を親権者と定めなければ離婚をすることができません(民法819条1項)。協議で決まらない場合には,裁判所の手続きを利用して親権者を指定することになります。
- 離婚しても共同親権にできないの?
- 親権者はどういう手続で決めるの?
- 親権者を決めるにはどんな事情・要素が考慮されるの?
- 親権者になるために有利な事情・要素は?
- 親権者は一度決めたら変更できないの?
今回は親権者の指定について取り上げます。
そもそも,親権とは
親権は,未成年の子を健全な一人前の社会人として育成すべく養育保護するという親の職責のため,親に認められた法的な地位とされています。
具体的な内容としては,
- 子の身上に関する権利義務(身上監護ないし身上親権)
- 子の財産に関する権利義務
の2つに分けられます。
親権者は,子どもに対して,上記2つの権利義務を適切に行使して,子どもを養育していくことになります。
婚姻時は,夫婦が共同で親権を行使することが定められています(民法818条3項)。
しかし,父母が婚姻関係を解消したときは,親権の共同行使は不可能または困難であると考えられており,父または母の一方が親権者になることとされています。そのため,離婚に際しては,父または母のどちらか一方を親権者と定めることとされています(民法819条1項)。
離婚後も父母が共同して親権を行使することが可能だという考え方もありますが,日本では,制度上は,離婚後の父母の共同親権は認められていませんので,注意が必要です。
なお,父母の一方を親権者に定め,もう一方を子どもを監護養育する監護権者に定めることもあります。
協議離婚の場合
協議離婚の場合,その協議の内容として父母の一方を親権者と定めなければなりません(民法819条1項)。
未成年の子に対する親権者が決定していない場合には,離婚届を提出しても受理されませんし(民法765条1項),離婚届には,親権者と親権に服する未成年の子の氏名を記載することになっています(戸籍法76条)。
親権者の指定にはいろいろな方法があり,例えば,数人の子がいる場合には,長男については父を,次男については母をそれぞれ親権者に指定することも可能です。
ただし,親権者の指定に期限・条件を付けることは認められていません。例えば,「子が小学校に入学するまでの親権者は母,その後は父とする」等と期限を付けて親権者を指定しても有効な指定とはなりません。一度決めた親権者を変更するには,親権者の変更の手続きが必要となります(民法819条6項)。
親権者の指定について,協議が整わないとき,または,協議をすることができないときは,父または母の請求によって家庭裁判所が協議に代わる審判をすることができます(民法819条5項)。
この手続では,親権者の指定のみを家庭裁判所の判断に委ねるということになりますが,通常は,協議で決められない場合は,離婚とともに親権者の指定の調停申立てを行って解決を図ることになります。
調停離婚の場合
親権者の指定について協議で決められない場合,通常は,家庭裁判所に調停申立てを行い,離婚(夫婦関係調整調停)調停の中で話合いを行います。
調停は,家庭裁判所において,調停委員の仲介のもとに話合いを行う手続です。家庭裁判所が,夫婦の間に入って調整を行うことになりますが,調停の場合も,最終的には両者の合意が必要になりますので,合意に至らない場合には,調停は不成立または取下げで終了します。
合意ができて調停が成立すれば,調停調書で決めた事項については,判決と同じ効力が得られます。
また,親権者の指定について,調停で折り合いがつかない場合,制度上は,親権者指定の審判手続もありますが(家事事件手続法284条1項),審判では終局的な解決が図れないため,通常,離婚訴訟(裁判離婚)で解決を図ることになります。
裁判離婚の場合
親権者の指定について調停で解決ができない場合,離婚訴訟の中で解決を図ることになります。裁判所は,離婚を認める判決をする場合,父母の一方を親権者と定めなければならないとされていますので(民法819条2項),離婚を認める判決をする場合には,その判決の中で父母の一方を親権者に指定します。
なお,離婚訴訟の中で和解が成立し,離婚をする場合は,和解条項の中で父母の一方を親権者に指定します。
親権者指定の基準
親権者を指定する判断基準について,明文の規定はありませんが,子の利益・子の福祉が判断基準とされます。
そして,具体的には,以下のような要素が考慮されます。
父母側の事情
- 監護(養育)の能力,養育の意思,子どもに対する愛情
- 心身の健康状態
- 経済状態
- 生活環境 等
子の側の事情
- 年齢
- 心身の健康状態
- 現状への適応状況
- 新しい養育環境への順応性
- 子の意思 等
これらを総合考慮して親権者を決定することになりますが,裁判例上,以下のような傾向があるとされています。
① 継続性
子どもの監護(養育環境)の継続性ないし現状維持を重視し,特別の事情のない限り,現実に子を監護養育している者を優先させるという考え方です。
② 母親優先
子どもが乳幼児の場合には,母親を優先させるという考え方です。
男女平等の原則からすると疑問があるところですが,実務上の傾向としては存在しています。
③ 子どもの意思の尊重
子どもが一定の年齢に達している場合(10歳程度)になっている場合,子どもの意思を尊重するという考え方です。
④ 兄弟姉妹不分離
兄弟姉妹は,なるべく同一の親権者のもとに置くという考え方です。
親権者の変更
父母間の協議・調停・審判・判決によって父母の一方が親権者と定められた後でも,子どもの利益のために必要があると認められる場合には,親権者を他の一方に変更することができる場合があります(民法891条6項)。
親権者の変更は,親権者の指定とは異なり,当事者間の協議だけで行うことはできず,家庭裁判所の判断を経る必要があります。
そして,親権者の変更においても,子どもの利益・福祉が判断要素の基本となることは親権者の指定の場合と同じですが,一旦決まった親権者を変更することは,子どもへの影響が非常に大きいことから,親権者の変更は容易には認められないのが実情です。
最後に
離婚に際して,親権者をどちらにするかは,子どもにとっても親にとっても,人生そのもの,あるいは,将来の生活に関わる極めて重要な問題です。
親権の指定において,最も重要なことは,子どもの人生・将来のために何が大切かを考えることだと考えます。
父母としては,当然,譲れない部分もあると思いますが,子どものために相手方の意向を尊重することが必要な場合もあります。
子どもの問題となると,感情的になったり,熱くなりがちですが,相手方を徒に非難するだけでは問題は解決しませんし,子どもの利益・福祉に悪影響を与えてしまう場合があることにも注意が必要です。
忘れてはならないことは,離婚をしても,親権者にならなくても,子どもにとって父親であること,母親であることには変わりはないということです。
そのため,親権者の指定においては,子どもの人生・将来を多角的視点で考え,離婚後の父母の役割も考えながら,子どもの健全な成長にとって相応しい養育を主体的に行えることをしっかりと主張して行くことが大切です。
子どもの親権者の指定の問題,離婚の問題について詳しく知りたい,手続がよくわからない等で悩んでいる場合は,当事務所にご相談ください。
本コラムは平成30年7月18日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。