財産分与
はじめに
結婚生活において,夫婦は協力して財産を築きます。
しかし,夫婦で協力して築いた財産が夫婦の共同所有や共有名義になっていることは多くなく,どちらか一方の所有や名義になっていることが多いと思います。
離婚の際の財産分与では,夫婦で協力して築いた財産(夫婦共同形成財産)を分けて清算することが必要になります。
「夫名義の自宅や車はどうなるの?」,「人生かけて築いてきた財産を分けないといけないの?」「専業主婦で給料はもらっていなかったけど財産分与はもらえるの?」といった率直な相談が寄せられることもあります。
また,財産分与では,よく以下のようなご相談が寄せられます。
- 財産分与はどの程度しなければならないの?
- 財産分与はどの程度してもらえるの?
- 専業主婦でも財産分与は受けられるの?
- 夫婦共働きの場合でも財産分与は問題になるの?
- 財産分与の基準(割合)はどうなるの?
- 不貞や不倫がある場合に財産分与に影響は?
- プロ野球選手,プロサッカー選手,芸能人,芸術家などの特殊技能職であったり,医師,歯科医師,弁護士,公認会計士,税理士などの専門職であったり,会社を経営しているような場合の分与基準(割合)は?
いざ離婚の話になっても,お金の問題は言い出しにくい面もあるかもしれませんが,どのように財産分与を行うかは,人生をかけて築いた財産をどう分けるか,陰で支えてきた貢献をどう評価するか,離婚後の生活の基盤をどう確保するかなどの問題を含んでおり,単なるお金の問題にとどまらず,将来の生活を左右する極めて重要な問題ですので,今回は,財産分与について取り上げます。
財産分与とは
財産分与とは,離婚する夫婦が婚姻中に協力して築いた財産を分けることです。
財産分与は,離婚の際に当然に行われるものではなく,離婚した夫婦の一方が他方に対して財産の分与を請求することにより行われます。
財産分与には3つの性質があると言われています。
- 清算的財産分与
婚姻中に協力して形成した財産を清算する - 扶養的財産分与
経済的弱者(病気で就労不能,高齢者など)に対する扶養的要素を考慮する - 慰謝料的財産分与
離婚原因を作った有責配偶者の慰謝料的要素を考慮する
実務上は,①の清算的財産分与が基本で,②の扶養的財産分与は要扶養性がある場合,③慰謝料的財産分与は場合によって考慮する場合があるという位置づけになります。
清算的財産分与
基本的な考え方
清算的財産分与は,婚姻中に夫婦の協力により得た財産(共有財産及び実質的共有財産)について,ぞれぞれの財産形成の寄与度を考慮して実質的に公平になるように分配して清算することを目的とする財産分与です。
対象財産
財産分与の対象財産は,基本的には,結婚後に夫婦の協力により形成した財産(共有財産及び実質的共有財産)です。
なお,実質的共有財産とは,名義は夫婦の一方になっているものの,夫婦の協力により取得した財産のことをいいます。
実質的共有財産の例
- 預貯金
- 生命保険,学資保険
- 自宅の不動産(一方の単独名義になっている場合)
- 車
財産分与の対象となる財産は,多岐にわたり,資産(プラスの財産)だけでなく,負債(マイナスの財産)も含めて清算の対象となります。
家庭のお金の管理(財産管理)は夫婦の一方任せということもよくありますが,財産分与を行うためには,対象財産を的確に把握することが必要です。
対象財産のうち代表的なものは以下のとおりです。
資産
- 不動産(一戸建て,マンション)
- 預貯金,株式,投資信託,国債,その他有価証券等
- 保険(生命保険,学資保険等)
- 車
- 動産
- 退職金
- その他
※年金は年金分割手続をご参照ください。
負債
- 住宅ローン
- 車のローン
- 借入,借金(生活支出に関するもの)
※特有財産(固有財産)
一方の配偶者が結婚前から所有していた財産や結婚後に相続や親族等からの贈与等により取得した財産のことをいいます
特有財産は,原則として対象財産となりません。ただし,夫婦共同生活のために一方の特有財産のみが費消されている場合などはその点が考慮される場合もあります。
また,特有財産から出資して得た財産なども特有財産から派生したものですので,原則として対象財産になりません。ただし,他方の配偶者が特有財産の維持や増殖に協力をしているような場合には,対象財産となる場合もあります。
分与割合
財産分与の割合は,近時の実務では,共働き夫婦の場合でも,一方が専業主婦(主夫)であっても,原則として2分の1(平等)とされています。
ただし,財産形成に対する寄与度(具体的な貢献度)によって分与割合が増減することがあります。
例えば,夫婦の一方が,プロ野球選手,プロサッカー選手,芸能人,芸術家などの特殊技能職であったり,医師,歯科医師,弁護士,公認会計士,税理士などの専門職であったり,会社を経営しているなどの場合は,一方の特殊技能や能力により財産形成への貢献度が異なる場合がありますので,個別の事情を考慮し,分与割合を決める必要があります。
分与方法
財産分与の方法としては,不動産等の名義変更,換価(売却)処分後に現金で清算,代償金での清算などの方法がありますが,具体的にどのような財産があるかによって方法が異なります。
扶養的財産分与
扶養的財産分与は,その生計を補助する目的で行われる財産分与です。
例えば,病気等で働くことができなかったり,経済力が乏しい高齢者,長年専業主婦として働いていたため早期の就職が困難な場合などに,生計を補助する目的で認められることがあります。
すべての場合に認められるものではなく,一方に扶養の必要性があり,他方に扶養の能力があることが前提であるため,仮に一方が病気等で働けない事情があったとしても,分与する財産がない場合,相当額の資産や不動産等で相当額の収入がある場合,清算的財産分与により相当額の財産分与を受ける場合などは,扶養的財産分与は認められないこともあります。
慰謝料的財産分与
離婚の際には,不貞(不倫)や暴力・暴言があったことなどを理由に慰謝料請求が問題となることも多いです。
しかし,慰謝料は必ず発生するものではありませんし,財産分与請求と慰謝料請求(損害賠償請求)は,本来は異なる性質のものですが,両方ともお金に関する問題のため,財産分与の中で慰謝料的要素を考慮して決めることも認められています。
実務的には,離婚訴訟等では,慰謝料請求は財産分与とは別立てで行うのが通常ですので,財産分与において慰謝料的要素を考慮するのは,任意協議,調停,訴訟における和解の場合が多いと思われます。
財産分与を行う手続
協議による解決
まず,当事者による話合いによる解決があります
離婚の前後を問わず,夫婦間の協議で財産分与について合意することができれば,任意に財産分与を行うことができます。
財産分与の対象財産,分与割合,具体的な分与方法は,協議の結果成立する合意の内容次第です。
財産分与の合意は,夫婦間の口頭の合意でもできますが,内容を明確にするため,後日の紛争を防止するためには,その内容について合意書,公正証書を作成するなどして書面を残すべきです。
調停による解決
離婚前の場合
離婚がまだ成立していない場合は,一般的には,離婚調停(夫婦関係調整調停申立事件(離婚))において,付随事項として財産分与を請求します。
そして,調停で合意ができず,調停が取下げや不成立となった場合は,離婚裁判(訴訟事件)において附帯して請求を行い,裁判所の判断により解決を図ります。
離婚後の場合
離婚が成立した後に財産分与請求を行う場合もあります。
このような場合には,財産分与の調停申立てを行い,調停での解決を図ります。
そして,調停で合意ができず,調停が取下げや不成立になった場合は,審判(審判事件)において裁判所の判断により解決を図ります。
請求期限
財産分与は,離婚時及び離婚後にも請求ができますが,いつまでもできる訳ではなく,一定の期間が経過すると時効によって請求ができなくなります。
時効期間は,離婚が成立した日の翌日から2年ですので,注意が必要です。
最後に
離婚に際して,どのように財産を分けるかは,単にお金の問題だけではなく,将来の生活の基盤にも大きく関わる極めて重要な問題です。
自分が管理している財産,相手方が管理している財産をしっかりと把握して,財産分与を行う必要がありますが,家計のことを一方に任せっきりで生活していると,しっかり把握できない場合もあります。
財産分与の対象財産を巡って,隠し財産が問題になったり,それぞれが特有財産を主張したりするなどして紛争が複雑化することも多くあります。
離婚に際しての財産分与についてさらに詳しく知りたい,手続がよくわからない等の場合は,当事務所にご相談ください。
本コラムは平成30年6月6日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。