離婚 年金分割とは?

はじめに

年金分割という言葉をご存じでしょうか。
離婚する際には,この年金分割も問題となります。
しかし,年金を分割するというのはどういうことなのでしょうか。
今回は,年金分割についてお話します。

年金分割とはなんでしょう

年金分割とはどんな制度?

年金分割は,公的年金のうち,厚生年金と共済年金について,年金額を算出する基礎となっている婚姻期間中に支払をした年金保険料納付実績を分割して,分割を受けた者に保険事故が発生した場合に(年金受給年齢に達した場合等),分割後の保険料納付実績に基づいて算定された額の年金受給権が当該分割を受けた者自身に発生するという制度です。

例えば,夫は会社員であり厚生年金の保険者となっていたものの,妻は専業主婦であった場合には,妻の側には厚生年金の受給権はないことになります。そうすると,夫は厚生年金と基礎年金の両方を受け取ることができる一方で、妻は基礎年金分しか受け取ることができないということになります。ですが,婚姻生活中に築いた財産は,夫婦共同で作り上げられるものであり,年金保険料の納付もその財産から出されているにもかかわらず妻だけが基礎年金分しか受け取れなくなるのは不公平です。

そこで,保険料の納付実績を分割することによって,夫婦間の不公平をなくすこととなりました。

公的年金にはどんな種類があるの?

まず公的年金というのは,政府が保険者となって,国民が被保険者として実施している年金を言います。
そして,公的年金は,2つに分類されます。

(1)国民年金

日本国内に住所を有する20歳以上60歳未満の人を被保険者とし,基礎年金として全ての国民が加入する年金です。

(2)厚生年金

厚生年金保険法に規定される「適用事業所」に使用される70歳未満の者及び国家公務員,地方公務員及び私立学校教職員を被保険者とする年金です。

この中で,年金分割の対象となるのは,(2)の厚生年金のみで,(1)の国民年金や,厚生年金基金・国民年金基金等は分割の対象とはなりません。

なお,かつては,「共済年金」という区分が存在し,国家公務員,地方公務員及び私立学校教職員については,共済年金に加入していましたが,平成27年10月1日以降は,一律に厚生年金に加入することになりました。

年金分割にはどんな種類があるの?

年金分割には,合意分割と3号分割の2種類の制度があります。

(1)合意分割

合意分割とは,夫婦の合意によって行うことが必要になる年金分割です。
合意分割を行うためには,

ア 分割することの合意があること
イ 分割割合の合意(按分割合)があること
ウ 請求期限内であること(原則,離婚等をした日の翌日から起算して2年以内)

が必要であり,当該要件を満たす場合には,按分割合の最大限度を2分の1として婚姻期間の保険料納付実績を分割できます。

当事者間の話し合いによって合意分割を行う場合には,上記のとおり,夫と妻の双方で按分割合の合意をして,書面を作成することとなります。書面を作成しておかないと,分割請求に際し書面の添付をすることができません。

また,話し合いで合意できない場合には,一方が家庭裁判所に申立をすることになります。家庭裁判所への申立としては,調停,審判,離婚訴訟の3つがあります。

(2)3号分割

3号分割とは,平成20年4月以降に,配偶者の一方が第3号被保険者(専業主婦など)であった期間(=特定期間)について,他方配偶者の保険料納付実績の2分の1を自動的に分割する制度です。3号分割においては,双方の合意は必要なく,請求すれば,当然に分割されます。

請求の期限はいつまで?

請求の期限についても注意が必要です。

分割請求の期限は,原則として,次に掲げる事由に該当した日の翌日から起算して2年以内です。

(1)離婚をしたとき
(2)婚姻の取り消しをしたとき
(3)事実婚関係にある人が国民年金第3号被保険者資格を喪失し,事実婚関係が解消したと認められるとき

よくある誤解

相談の中でも,年金分割で,2分の1ずつ分割すると聞くと,もらえる年金額が半分ずつになるとの誤解をもたれる方がいらっしゃいます。

ですが,年金分割で分割されるのは,あくまで婚姻期間に限った保険料納付記録部分であり,収入に応じて保険料を納める「報酬比例部分」だけとなっています。ですので,例えば,夫が受け取る年金全体を5割対5割というように分けるものではありませんので注意が必要です。

年金分割を受けたとしても,年金受給する方が年金受給に必要な要件を満たしていなければ,年金の受給はできません。

少なくとも最低加入期間を満たすよう,年金保険料の納付を続けていくことが必要です。

年金分割のための情報通知書

以上,年金分割について記載をしてきましたが,年金分割を行う上で,忘れてはならないのが対象となる保険料納付実績があるのかについて確認をすることです。 そして,確認を行うためには,日本年金機構に対して申請をして,「年金分割のための情報通知書」という書面を発行してもらうことになります。

公務員や私立学校の教職員は,年金分割について,従前は,共済年金という年金に加入していて,共済組合ないし共済事業団に確認を取ることが必要でした。しかし,前記の通り,平成27年10月1日以降は,公務員や私立学校教職員も厚生年金の被保険者となっています。そのため,公務員や私立学校教職員については,上記通知書発行のために日本年金機構に申請をすることができますし,所属する各共済組合に対して通知書の発行を申請することもできます。

最後に

今回は,年金分割について解説しました。

年金分割には,合意分割と3号分割の2種類があります。3号分割については,平成20年4月以降の期間についてのみ分割ができる,合意分割については平成20年4月より前の期間についても分割できる等の違いがありますので注意が必要です。

「年金分割」という言葉は聞き慣れないかもしれませんが,離婚に際して重要な問題となりますので,検討することを忘れないようにしてください。

年金分割について詳しく知りたい,自分の場合にはどの年金分割制度が適用されるのかがわからない,年金分割の方法がわからない等お悩みの際には弁護士へご相談ください。

本コラムは平成30年3月5日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。

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