コラム 交通事故 むちうち
むちうちとは?
交通事故で,衝突の力が体に加わることにより,首(頸部)などを痛めることがよくあります。
診断書では,頸椎捻挫,頸部捻挫,外傷性頸部症候群などの傷病名で診断がされます。
典型的な受傷状況としては,下の図のように衝撃が加わり,首に外力のエネルギーがかかることで,軟部組織などの損傷を引き起こし,多様な臨床症状が出現します。
これが「むちうち(ムチウチ,むち打ち)」と呼ばれる症状です。
皆さんも,「むちうち」という言葉は聞いたことがあると思いますが,実は,「むちうち」のメカニズムや症状は医学的には完全に解明されているわけではないようです。
よく言われる特徴としては,画像検査では異常が現れないことも多く,事故直後は症状がないものの,翌日以降に症状が出ることもあり,また,必ずしも衝突速度とは関係がなく,低速の衝突でも発症することがあるといったことが指摘されています。
むちうちの症状
「むちうち」には様々な症状があると言われています。
- 頸部痛及び背部痛
- 頭痛
- めまい
- しびれ
- 感覚異常
- 筋力低下
- 眼痛,視力低下
- 耳鳴り,難聴
- 吐き気,嘔吐
- 腰痛
- 易疲労感
- 睡眠障害 など
治療上の注意点
「むちうち」は,思いもよらない重い症状が出ることがあります。
当たり前のことですが,主治医の先生に相談しながら,その指示に従ってしっかり治療を受けましょう。
ただし,目に見えない症状が多いため,治療の必要性や相当性について,事故との因果関係が争われ,加害者側(保険会社)から「治療の必要性が認められない,過剰な治療だ,治療が長すぎる」などといった主張がされ,治療費を払ってもらえないこともありますので,注意が必要です。
例えば以下のような点がよく問題となります。
- 事故状況(衝突の程度,車の損傷等)と治療の内容・治療期間
- 整骨院での治療の必要性・相当性
- 長期間の治療(治療の終了時期)
むちうちの発症と衝突速度は必ずしも相関関係がないと言われますが,事故の状況(衝突の程度,車の損傷状況)などは,治療を受けるうえでも重要な情報ですので,主治医の先生にもこれらの情報をきちんと伝えておく必要があります。
また,整骨院での治療については別の注意も必要です。
交通事故の実務では,治療は,病院・医院での医師による診療が原則で,整骨院での施術はこれを補完するものと位置づけられています。そのため,整骨院の先生の指示に従って施術を受けるだけだと,治療の必要性や相当性が認められない場合があります。
また,下記のように後遺障害認定が問題となる際には,病院にほとんど通院せず,大部分が整骨院の通院というような場合は,治療経過が不明等の理由で主治医の先生(医師)に後遺障害診断書を作成してもらえないことがありますので,この点も注意が必要です。
症状固定
「むちうち」の症状は,一定期間治療を継続しても完全に回復しないことがあります。
被害者側としては,治るまで治療を続けたいというのが本心ですが,実際には「症状固定」の問題があり,ずっと治療が受けられる(治療費を払ってもらえる)というわけではありません。
症状固定とは,簡単に説明すると,一定期間の治療を行って一定の状態までは回復したものの,これ以上治療を続けても症状の改善が見込まれない状態のことをいいます。
賠償実務では,原則として症状固定時までの治療しか賠償の対象とならず,症状固定後の症状に対する補償は後遺障害の問題として考えることになります(なお,重い後遺障害が残り機能維持等のために永続的に治療が必要な場合は,例外的に症状固定後の将来治療費が認められることもあります。)。
特に,「むちうち」の場合には,症状固定後の治療費が賠償の対象として認められることはほとんどありません。
勿論,相手方や任意保険会社から治療費の支払いを打ち切られた後も,自費で治療を続けることもできますし,そのような必要がある場合もありますが,症状固定となった場合には,治療費の負担を求めることに固執せず,気持ちを切り替えて,正当な補償を受けるために,後遺障害の認定を受ける準備をすることも重要です。
むちうちと後遺障害
「むちうち」は,時間の経過で自然に治るともいわれますが,症状は様々で,一定期間治療しても症状が残ることがあります。
そのため,「むちうち」も後遺障害として認定を受けられる場合があります。
むちうちの代表的な症状である痛みやしびれの神経症状については,
- 12級・13号:局部に頑固な神経症状を残すもの
- 14級・9号:局部に神経症状を残すもの
に該当する場合があります(後遺障害別等級表参照)。
12級13号の「局部に頑固な神経症状を残す」とは,障害の存在が他覚的に証明できるものとされています。
14級9号の「局部に神経症状を残す」とは,障害の存在が医学的に説明可能なものとされています。
他覚的所見とは,種々の検査結果を指します。
例えば,X線,CT,MRIなどの画像所見や深部反射検査,病的反射検査(上肢のホフマン,トレムナー,下肢のバビンスキー反射など),スパーリングテスト,ジャクソンテスト,筋電図検査,神経伝達速度検査,知覚検査,徒手筋力検査(MMT),筋萎縮検査などの検査結果です。
後遺障害認定においては,自覚症状と他覚所見との整合性も問題となります。
「むちうち」くらいでは,後遺障害とは言わないと誤解をしている方もいますし,病院の先生にも「むちうち」では後遺障害の認定は無理と言われる方もいます。確かに後遺障害認定が非該当という場合もありますが,治療を続けても症状がなくならない場合は,後遺障害認定を受けることの検討が必要です。
後遺障害認定を受けるためには
後遺障害認定は,基本的には,初診時からの診断書,診療報酬明細書(レセプト),画像(レントゲン,CT,MRI),後遺障害診断書などを元に書面審査で認定がなされます。
主治医の先生には,初診時から,受傷状況,自覚症状などをきちんと説明し,それをカルテや診断書に記録化してもらうことが重要ですし,治療終了時(症状固定時)には,自覚症状をきちんと説明し,必要な検査を受け,それらの結果を,漏れなく正確に後遺障害診断書に記載してもらうことが重要です。
後遺障害認定を受ける前に,これらの書類の内容を精査することが重要です。
むちうちの類型及び関連する病態
「むちうち」には,頚椎捻挫型,神経根型,脊髄症型などの類型があると言われています。
また,バレー・リュー症候群,胸郭出口症候群,脳脊髄液漏出症(脳脊髄液減少症,低髄液圧症候群)といった病態になることもあると言われています。
「むちうち」といっても,個別の事案によって様々な症状があり,時に重篤な後遺症が残ることもありますので,注意が必要です。
むちうちの相談
「むちうち」は,交通事故の中でも最も多い怪我の一つです。しかし,実は,非常に奥深く,難しい傷病・後遺障害の一つです。相談をする場合には,きちんと相談にのってくれる弁護士に相談することをお勧めします。
本コラムは平成29年12月6日に執筆されたものです。記載内容につきましてはその時点の情報をもとに作成されております。また、内容に関しましては、万全を期しておりますが、内容全てを保証するものではありませんのでご了承ください。